半導体テクノロジー
AI半導体とは?
データセンターの電力課題と革新的アプローチ
AI半導体とは? 従来チップとの違い
AI半導体は、AIのアルゴリズムが必要とする「演算処理」に特化して設計された半導体チップです。CPU(Central Processing Unit)などの汎用(はんよう)処理に特化した半導体チップとは大きく異なります。特徴は、大量のデータを同時に高速処理できる並列処理能力の高さです。AIの学習や推論には膨大な計算とデータ処理が必要であり、従来チップは処理速度や消費電力の面で限界がありました。
AI半導体には、画像処理用として発展したGPU(Graphics Processing Unit)、推論など特定の用途に最適化されたFPGA(Field Programmable Gate Array)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)など、多様なタイプがあります。これらはAIアルゴリズムに最適化されており、CPUに比べて圧倒的な計算速度を実現します。そして、現在広く使われているのがGPUとHBM(High Bandwidth Memory)の組み合わせです。
これまでのGPUはメモリを外部に配置していましたが、HBMはGPUパッケージ内に複数のDRAMダイを3D積層し、インターポーザを介してGPU本体と密接に接続されます。この構成によって広いメモリバス幅と高いデータ転送速度を実現し、GPUの演算性能を最大限に引き出すことが可能となりました。
AI半導体は用途ごとにカスタマイズや拡張性が高く、専用アクセラレーターを組み込むことで、AIの高度な処理を効率的に実行できる点も従来チップとの大きな違いです。このような特性により、AI半導体は生成AIや自動運転、エッジデバイスなど幅広い分野で急速に普及しつつあります。
特徴 | AI半導体チップ (GPU、FPGA、ASICなど) |
従来チップ (CPUなど) |
---|---|---|
主目的 | AI学習・推論を高速化 | 汎用計算を広く処理 |
処理方式 | 数千~数万コアで大規模並列 | 少数コアで順次処理中心 |
AI性能/消費電力 | 同一タスクを高速・省エネ化 | AI演算は非効率・電力大 |
カスタマイズ性 | 回路を用途別に最適化し、無駄な回路が少ない | AI用途に合わせた最適化は限定的 |
主な用途 | スマホAI機能、音声アシスタント、自動運転、クラウドAI | PC、家電、ゲーム機 |
データセンターの限界
AIの普及に伴って、取り扱うデータ量が激増しています。そのため、そうしたデータを処理する計算資源の確保が極めて重要になっています。特に、大規模データセンターの半導体需要が急増しており、GPUを中心とした高性能チップが欠かせません。

AIの処理は「学習(トレーニング)」と「推論」に分かれます。学習は大量のデータを用いてAIモデルを作り上げる段階で、スーパーコンピュータ並みの膨大な計算資源と電力を必要とします。一方、推論はトレーニング済みモデルを使って実際の判断や予測をする処理です。
IEA(国際エネルギー機関)が2025年4月に公表した報告書「Energy and AI」によると、世界のデータセンターの電力消費は2030年までに倍増し、約945Tワット時に達すると予測されています。特にAI専用データセンターの電力需要は2030年までに4倍以上に増える見込みで、これは現在の日本の総電力消費量を上回る規模です。こうした膨大な電力需要を支えるため、再生可能エネルギーの導入や電力供給の安定化が急務となっています。
AIモデルの学習や推論には膨大な電力が必要であり、AIモデルの規模拡大とともにGPU依存のデータセンターでは消費電力や冷却コストが大きな課題となっています。特に高性能GPUサーバは1台当たり数キロワットの電力を消費して大量の熱を発生させるため効率的な冷却が求められるものの、その対策や熱を分散させるためのラック配置などが運用コストの増大につながります。計算資源の供給能力にも限界があり、消費電力や冷却コストの抑制、柔軟な計算資源配分が今後のデータセンター運用の重要課題となっています。
エッジデバイスでのAI活用(エッジAIの必要性)
AIは巨大なデータセンターなどのクラウドで動くだけではありません。IoTデバイスやスマートフォン、家電、自動車、スマートグラス、AR/VR機器、携帯翻訳機などさまざまなエッジデバイスでの活用も広がっています。

これらのデバイスで大きな役割を果たすのが「AIアクセラレーター」です。AIアクセラレーターは、画像解析や音声認識などのAI処理をデバイス内で、高速かつ省電力で実行し、リアルタイム性やセキュリティ、通信コスト削減を実現します。自動車ではカメラ映像の解析による異常検知や自動運転、スマートグラスやAR/VRはユーザーの視線追跡や現実空間への情報重畳、携帯翻訳機はその場での音声翻訳を可能にしています。AIアクセラレーターの進化によってエッジデバイスはクラウドに頼らずに高度なAI機能を実現し、産業や日常生活の多様な場面で活用範囲を広げています。
AIアクセラレーターの可能性
GPUは画像処理を主目的とした汎用プロセッサであり、AI処理は得意ですが消費電力や価格が高く、エッジ用途には不向きな場合があります。
一方、AIアクセラレーターはAI計算を高速、省電力でこなす専用ハードウェアです。GPUやCPUに対して特定のAIタスク(ディープラーニングやニューラルネットワーク処理など)に特化しているため無駄のない回路設計が可能で、エッジデバイスや組み込みシステム向けに低コスト、小型、低消費電力での実装が実現します。その特性から、スマートフォンやIoTデバイス、家電、自動車など、モバイルや小型デバイスでもAI処理をリアルタイムかつ省電力で行える点が大きな利点です。
また、FPGAやASICといった専用設計のものが多く、必要なAI演算に最適化されているため高い計算能力とエネルギー効率を持ちます。このように、AIアクセラレーターは多様なAIアプリケーションにおいて、低消費電力、低コスト、小型化という要求を満たし、エッジAIの普及を支える重要な役割を果たしています。
RapidusとTenstorrentの取り組み
RapidusはTenstorrent(CEO:Jim Keller)と連携し、2nm(ナノメートル)ロジックを用いたエッジAIアクセラレーターの開発を2024年2月から推進しています。
本プロジェクトは、次世代半導体の量産技術の実現を目的とした研究機関「最先端半導体技術センター」が採択したNEDOの「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」における「2nm世代半導体技術によるエッジAIアクセラレーターの開発」の枠組みで進められます。Tenstorrentは、2nmレベルのAIエッジデバイス開発に必要な世界最高レベルのRISC-V CPU設計技術とチップレットIPを有しており、Rapidusの製造プラットフォームと結び付けることで設計と量産を一体で最適化する点が大きな強みです。Rapidusは最先端半導体の製造を担い、国際連携でエッジAI向け半導体設計と製造の革新を目指します。

AIによるデータ処理や判断をクラウドではなく端末(エッジデバイス)側で行う技術です。これによってリアルタイムでの判断が可能となり、タイムラグが発生しません。必要なデータのみをクラウドに送信するため通信コストを削減でき、機密性の高い情報も端末内で処理できるのでセキュリティも向上します。自動運転や産業用ロボットなど、即時性や安全性が求められる分野で活用が進んでいます。
CPUはコンピュータ全体の制御と多様な処理を担う「司令塔」で、少数の高性能コアで複雑なタスクや条件分岐を高速に順次処理します。CPUは汎用性が高く、IntelとAMDが主要なメーカーです。
GPUは画像処理や3Dグラフィックス描画に特化した半導体チップです。最大の特徴は、数千もの演算コアによる大規模な並列処理能力で、これにより大量データを同時に高速処理できます。この特徴がニューラルネットワークの学習や推論といった膨大な行列演算に最適であり、CPUよりも効率的なAI処理を実現します。現在、生成AIやディープラーニングの発展を支える中核的な半導体として、NVIDIAなどが市場を牽引(けんいん)しています。
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