ピープル

グローバル企業とスタートアップの経験を活かし、世界レベルの経営基盤づくりへ。CFOが描く、次世代につながるRapidusの経営

村上 敦子

取締役専務執行役員 CFO兼コーポレート本部長

インタビューのポイント

  • 4,249億円超の出資・支援を受け、量産開始に向けた資金調達は事業計画に沿って順調に進捗。
  • 上場企業に求められる水準を意識した情報開示が、ステークホルダーとの信頼を支える。
  • 財務と非財務を統合したストーリーで、Rapidusの価値を伝えるコーポレート本部の戦略。

最先端半導体の国産化に向け、世界規模の挑戦を続けるRapidus。創業期のスタートアップでありながら、世界と戦うための強固な経営基盤づくりも求められている。2024年に参画した村上敦子は、CFO(最高財務責任者)として財務を統括するとともに、コーポレート本部長として非財務領域も担う。財務と非財務の情報を一つのストーリーとして伝え、ステークホルダーとの信頼関係を築くことも重要な役割だ。その先に見据えるのは、世界に信頼される半導体企業への成長と、日本の半導体産業の未来だ。成熟したグローバル企業とスタートアップ、両方の経験を積んできた村上が、Rapidusの経営を支える現在地と、これからの挑戦について語った。

「日本の製造業の未来に貢献する」という大きな夢と価値に魅力を感じ、Rapidusへ参画

――これまでのキャリアと、Rapidusへの参画を決めた理由を教えてください。

私のキャリアは銀行から始まり、主にソニーというグローバル企業で長く働いてきました。そのほか、スタートアップなどでも経験を積みました。基本的には財務を中心に、資金調達、IR・SR、経営管理、ポートフォリオ管理、投資判断などを担ってきました。

特にグローバル企業で仕事をする中で意識してきたのは、事業や経営を支える基盤づくりです。事業をどのように支えていくかを考えながら、取り組んできました。

2024年にRapidusに参画することになった理由はいろいろありますが、特に小池社長との面談で言われた「日本の製造業の未来を考えると、最先端半導体への挑戦は避けて通れない」という言葉が印象に残っています。長らく製造業に関わってきた私にとって、非常に衝撃的な言葉でした。

私は、Rapidusという一つの企業に貢献するだけではなく、日本の産業界、そしてその未来に貢献できる可能性のあるプロジェクトに参加することに、大きな夢と価値を感じ、参画を決意しました。

――「日本の最先端半導体への挑戦」という言葉を聞いたとき、村上さんご自身は、日本の製造業についてどのような思いを抱きましたか。

日本人はものづくりに長けていると考えています。一方で、ここ数年、日本の製造業が他の国々に追い越されてきたことも目の当たりにしてきました。だからこそ、ここで日本の製造業が復活し、未来にわたって発展し続けていくことを願っています。

「規律」と「スピード」を両立するRapidusの経営

――成熟したグローバル企業と、急速な成長過程にある現在のRapidusでは、どのような違いがあるとお考えですか。

成熟した企業とスタートアップでは、経営や管理のあり方が大きく異なると感じています。成熟した企業には、長年培ってきた規律や管理方法があります。それらに則り事業を運営することで、質の高い経営を実現することができます。

一方、スタートアップは、走りながら考え、仕組みをつくっていく必要があります。確立された管理方法があるわけではないので、事業を進めながら管理のあり方そのものを考えていかなければなりません。その中で、最も重要になるのがスピード感です。この点が、成熟した企業とは大きく異なると感じています。

私は、成熟企業とスタートアップの両方で経験を積んできました。Rapidusは創業期の企業ですが、世界的にも非常に大きな規模の事業です。そのため、単純なスタートアップではなく、両方の要素を組み合わせた企業だと考えています。だからこそ、これまで培ってきた経験が活かされていると感じています。

創業期ならではのダイナミズムと、世界レベルの経営基盤づくりを同時に経験できることは、大変やりがいのある挑戦だと思っています。

ステークホルダーとの信頼を支える、フェア・ディスクロージャーの重要性

――2027年度の量産開始という目標に向け、今後も資金確保が必要とお考えですか。

まず、2026年6月時点で4,249億円を超えるご出資をいただいている株主の皆さま、政府関係機関の皆さま、そして関係する多くの皆さまに、心より感謝申し上げたいと思います。

Rapidusの取り組みは、国家的にも非常に重要なプロジェクトだと考えています。その意味でも、私たちの責任は大変重いと認識しています。

資金調達については、現時点では事業計画に沿って順調に進捗しています。今後は、量産に向けて、そして量産以降の開発などに、まだまだ多くの資金が必要になってきます。政府からの支援、民間企業からの出資、金融機関からの融資を組み合わせながら、必要な資金を確保していく方針です。

そのうえで、資金をどのように活用し、どのような成果につなげていくのかを透明性を持って説明していくことが重要だと考えています。

――Rapidusが情報開示を重視されているのは、なぜでしょうか。

資金をご出資いただく、あるいはお借り入れさせていただく中で、非常に大切なのは信頼関係だと考えています。その土台となるのが、ディスクロージャー(情報開示)です。

上場企業では、経営状況や財務状況など重要な情報を公平に公開するフェア・ディスクロージャーが求められますが、これはまだ上場していないRapidusにとっても非常に大事だと思っています。

企業はさまざまなステークホルダーに支えられています。株主の皆さま、お金を貸してくださる金融機関、お客さまやビジネスパートナー、そして当社であれば研究製造拠点がある北海道千歳市といった地域のコミュニティも含まれます。そして言うまでもなく社員も重要なステークホルダーです。

こうした皆さまに対して、公平に、適切な情報をお届けしていくことが信頼関係の土台になります。フェア・ディスクロージャーは、会社の企業価値を上げていくための根幹になると考えています。

――多様なステークホルダーに情報を伝えるうえで、どのような点を工夫されていますか。

私たちはまだ上場企業ではありませんが、上場企業に求められる水準も意識しながら、正確性、公平性、透明性、タイムリーさを重視した情報開示を目指しています。そのうえで、ステークホルダーによってコミュニケーションの方法は少しずつ異なるため、一つひとつのコミュニケーションを、相手に合わせて工夫していくことが大切だと考えています。

例えば、株主の皆さまには、四半期ごとに「四半期報告会」を行っています。その中で、単に数字だけをお伝えするのではなく、私どもの技術や、どういう製品をつくっているのかといったことも、きちんとお伝えするよう心がけています。

社員に対しては、何が起きたかという事実はもちろんですが、それに加えて、経営からのメッセージを伝える工夫をしています。

Rapidusは新しい会社ですから、フェア・ディスクロージャーに対して私たちが目指す姿はありますが、その実現に向けて今まさに一歩ずつ形にしているところです。工夫を重ねながら、さまざまなステークホルダーの皆さまのご意見を伺い、積み重ねていきたいと考えています。そうして、私自身が目指すフェア・ディスクロージャーをつくり上げ、それが企業価値につながっていくと考えています。

6つの機能を結集し、Rapidusの価値を伝える

――村上さんはCFOであると同時に、コーポレート本部長も担われています。財務における数値情報と、広報渉外などの非財務メッセージを統合的にマネジメントすることの強みや、そこから生まれる相乗効果を教えてください。

企業価値を考えるときには、財務だけではなく、人的資本や知的財産、社会関係といった非財務の資本も非常に大事になってくると思います。非財務と財務を合わせて一つのストーリーにし、それをステークホルダーの皆さまにお伝えすることに努めています。

Rapidusでは、経営管理、経理、財務、IR・SR、広報、渉外という6つの機能をコーポレート本部として統合的に運営しています。これは単に効率化のために一つの本部にまとめているわけではありません。6つの機能が統合され、一体となって活動することで、財務と非財務を合わせたストーリーをつくり、ステークホルダーの皆さまにうまくお伝えしていくことができる。そういう意味でも、この6つの機能を一つの本部で運営していることは、非常に戦略的だと考えています。

性別にとらわれず、自分の可能性を信じ、専門性と視野を磨く

――日本企業では今後、ますます女性が活躍することが期待されています。女性活躍についての考えをお聞かせください。

女性活躍は、今後Rapidusが成長していく中で、非常に重要なファクターだと考えています。従業員の多くがエンジニアということもあり、特にエンジニアの分野では、女性の活躍がまだまだ進んでいないと感じています。従業員に占める女性の割合も、非常に少ない状況です。

一般的に、なぜ女性がエンジニアの道に進まないのかということについて、いろいろな方からお話を伺うことがあります。実際には、もともと持っている才能や能力、ポテンシャルに男女の差はないと考えています。

その一方で、子どもの頃からのご家族の考え方や、社会にある無意識のバイアスなどによって、自分が進む道を考えたときに、エンジニアという選択肢自体がないこともあるのではないかと思っています。

もしそうであれば、本来持っているポテンシャルや才能が社会に活かされていないことになります。ご本人にとっても残念なことですし、日本の産業界にとっても非常に残念なことです。ですから、ぜひ女性にもエンジニアに挑戦していただきたいと思っています。

Rapidusは、新しい会社ということもあり、さまざまな分野で活躍していただける場があります。エンジニアだけではなく、事業戦略、財務、広報など、さまざまな管理部門にも女性が活躍できるフィールドがあります。性別にかかわらず、ぜひ幅広い分野にチャレンジしていただきたいと考えています。

――村上さんご自身が、これまで女性が専門性を活かしてキャリアを築くうえで意識されてきたことや、ロールモデルとして心がけてこられていることがあればお聞かせください。

私自身も、自分の能力に無意識に枠をつくって、「自分は、これ以上はいけない」と上限を決めてしまうようなことがあったと思います。

そういうものは、ぜひ取り払っていただきたいと思います。私自身も、そうした無意識の枠に気づいてからは、それに縛られず、どんどん自分のやりたいことに取り組んでいくことを心がけてきました。女性だからできないとは考えずに、いろいろなことに取り組んでいただければと思っています。

もう一つ、特に女性に限らないことですが、専門性を磨くことは非常に重要だと思っています。ぜひ皆さんに、「自分はこれが得意だ」と言える専門性を身につけていただきたいと思います。

一方で、会社を経営していくうえでは、専門分野だけを見るのではなく、会社全体がどうなっているのか、世の中がどう動いているのかを見る、広い視野も必要です。専門性に加えて、会社全体、さらには社会全体を見渡す視野を持つことで、経営に携わることもできると思います。

一つの専門性を身につけながら、広い視野を持って会社全体、社会全体を見渡せる。そういった人材を育てていくことで、会社としてより良い判断ができるようになると考えています。

世界と戦える事業を支え、次の世代につなげる

――村上さんの今後の展望、アクションについてお聞かせください。

私の今後の展望は、Rapidusを世界に信頼される半導体企業へと成長させるための強固な経営基盤を築くことです。

そのためには、財務基盤はもちろん、人材やガバナンスなど、さまざまな要素を合わせてつくり上げていく必要があります。それが、私の役目だと考えています。

そして、その経営基盤によって、世界に打って出られる、世界と戦っていける事業を支えていきたいと思っています。

Rapidusは、日本の産業史の中でも極めて大きな挑戦です。だからこそ、短期的な成果だけではなく、次の世代につなげていける仕組みや文化を残していきたいです。

何年か経ったときに、「あの時が、日本の半導体業界の復活への転換点だった」と皆さんに思っていただけるような会社になる。そのために、経営基盤づくりを通じて、次の世代に全力で貢献していきたいと考えています。

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