テクノロジー

半導体トランジスタの仕組み オンとオフが作るデジタル社会のスイッチについて

私たちのデジタル社会は、全て「0」と「1」という極めてシンプルな情報の組み合わせで動いています。これらの数字を物理的に生み出しているのが、電子機器の中核をなす半導体で作られた「トランジスタ」です。

トランジスタは、部屋の照明スイッチのように電流を流したり(オン)、止めたり(オフ)する働きを持っています。オンとオフの高速な切り替えによって、0と1というデジタル情報を表現します。無数のトランジスタが連動することで、コンピュータは膨大な計算やデータの記憶を実現しています。

本記事では、単純なスイッチであるトランジスタがどのようにして驚異的な進化を遂げ、デジタル社会を支える存在になったのか、その歴史と最新技術を交えて紹介します。

トランジスタの基本原理

トランジスタは、電気信号で制御できる高速なスイッチです。内部には「ゲート」と呼ばれる制御端子があり、ここに電圧をかけることで「チャネル」という電流の通り道を開閉します。しきい値電圧という、一定以上の電圧が加わるとチャネルが導通(オン)し、電流が流れます。逆に電圧をかけない状態ではチャネルが遮断(オフ)され、電流は流れません。このオン/オフの状態をデジタル情報の0と1として扱います。

こうしたスイッチングは機械的にも実現が可能です。しかし、トランジスタによるスイッチングは機械的なスイッチとは異なり、電子的に行われるため非常に高速です。トランジスタの集まりが0と1の情報を大量に制御することで、数字や文字、映像などの情報をデジタルデータとして表現し、処理できるのです。

スマートフォンの画面に表示される写真や動画も、内部では数億から数十億個のトランジスタがそれぞれ0か1の状態をとり、それを組み合わせてデータを表しています。トランジスタは、デジタル社会の最小単位として、現代の電子機器の根幹を支える重要な存在です。

トランジスタの発明とその進化

トランジスタの発明

トランジスタは20世紀最大の発明品の一つとも言われます。半導体の中核であるトランジスタは、1947年に米国ベル研究所のジョン・バーディーン、ウォルター・ブラッテン、ウィリアム・ショックレーによって発明されました。

当時の電子機器は真空管が主流でしたが、大型・高消費電力であることから、その代替となる新しい素子が強く求められていました。そこで登場したのが初期の点接触型トランジスタです。これは現在のバイポーラ型トランジスタの原型ともいえるもので、電子回路の小型化と省電力化の先駆けとなりました。

トランジスタの発明によってショックレー、バーディーン、ブラッテンの3人は1956年にノーベル物理学賞を受賞しています。その授賞理由は「半導体の研究およびトランジスタ効果の発見」です。

トランジスタの誕生、小型化によって電子機器の小型化が進みました

MOS型トランジスタ

その後、トランジスタはさらなる改良が進みます。中でも大きな転換点となったのが、1960年代に登場したMOS(Metal Oxide Semiconductor)型トランジスタです。名前の通り、金属(Metal)、酸化膜(Oxide)、半導体(Semiconductor)の3層構造を持つことからこの名が付けられました。

MOS型は、従来のバイポーラ型に比べてスイッチング速度に優れ、消費電力を大幅に削減できる点が特徴です。こうした利点から、現在の半導体回路のほとんどはMOS型をベースに構成されており、スマホからスーパーコンピュータまで、さまざまなデバイスの基盤技術となっています。

トランジスタを小さくする理由

トランジスタの発明以来、その性能向上の原動力は「微細化」、すなわちスイッチサイズの縮小です。それではなぜスイッチを小さくするのでしょうか。その主な理由は次の3点です。

高性能化

トランジスタが小さくなると、半導体の内部で電子が移動する距離が短くなり、オン/オフのスイッチング速度が向上します。これによって信号処理や演算が高速化し、チップ全体の計算能力が飛躍的に高まります。

また、同じチップ面積内に集積できるトランジスタ数を増やせるため、性能向上を図ることが可能になります。

省エネ化

トランジスタを小型化すると、スイッチングに必要な電荷量が減少しトランジスタの消費電力を下げられます。電流が流れる経路が短縮されるため損失も抑えられ、発熱が減少します。

最近のスマホに搭載されるチップは数nm(ナノメートル)世代の技術で作られており、電力効率は新たな世代の技術が投入されるたびに20~30%程度改善され、電池持ちの向上に貢献しています。また、大規模データセンターでも電力コスト削減に寄与している重要な技術です。

コスト低減

トランジスタの微細化が進むと前の世代と同じ性能であればチップ自体を小型化できます。チップが小さくなると1枚のシリコンウェーハから取れるチップ数が多くなるため、1チップあたりのコストを低減できます。

こうした高性能化、省エネ化、低コスト化の流れを受けて、半導体産業は「ムーアの法則」に沿うかたちで微細化を進めてきました。トランジスタの集積度はおよそ2年ごとに2倍になり、その積み重ねが現在の半導体技術を支えています。

平面型トランジスタの限界

長らく半導体産業をけん引してきたトランジスタを単純に小さくするアプローチである微細化には物理的な限界が存在しました。

具体的には、平面型(プレーナ型)という従来のMOS型トランジスタで、ゲート長が20nmあたりからオフ状態でのリーク電流(漏れ電流)が急増し、電力ロスや誤動作を引き起こすというものです。リーク電流が増大すると、スイッチを切っているのに電力を消費し続けるうえ、デジタル回路では本来「0」であるべきところが「0」と認識されなくなる(意図せず動作してしまう)恐れもあります。

つまり、微細化が進みすぎた平面型トランジスタは、消費電力の増大やデジタル信号の誤作動といった深刻な課題が表面化したのです。こうした課題は、ゲート長が22nm程度のプロセスあたりで限界に達しています。

トランジスタを立体化する理由

平面型トランジスタの微細化限界を克服するため、トランジスタ構造そのものが見直されました。立体構造を採用することで、性能向上と低消費電力化が実現しました。

FinFET(フィン型トランジスタ)の登場とその特徴

2010年代前半に実用化されたFinFET(Fin Field Effect Transistor)は、チャネルを魚の背びれのようなフィン状に垂直に突出させ、ゲートが上面と両側面の3方向から囲むトライゲート構造を採用しています。これによってゲートの電界制御力が強化され、リーク電流を大幅に低減しました。オン状態では大電流を流せ、スイッチング速度も向上します。

FinFETは現在主流となっている5nmや3nm世代でも活用されており、スマホやPCのCPU、GPUなどの高性能化に貢献しています。この構造によって、半導体産業は20nm以下の微細化を加速させました。

GAA構造への進化

しかしこのFinFETにも限界(3nm世代以降のリーク電流増加)が近づきます。この課題に対応するため、次世代のGAA(Gate-All-Around)構造が開発されました。チャネルをナノシートやナノワイヤ状に形成し、ゲートが360度全周囲から囲まれた構造となっています。これによって電流制御性が最大化され、リーク電流を最小限に抑えることが可能となりました。

IBMが2021年に発表した世界初の2nm試作チップでも、3層のシリコンナノシートを積み重ねたGAA型トランジスタが採用されており、同世代のFinFETを上回る性能向上と大幅な省電力化が実証されました。

GAA型トランジスタは2nm世代プロセスなど今後の最先端製造ノードで本格的に導入される予定であり、AI用のプロセッサや次世代CPUなど、究極の性能が求められる分野を支える基盤技術になると考えられています。

2nm世代の半導体チップは、7nm世代比で最大45%高い性能、または75%もの消費電力削減を実現できると報告されており、この飛躍的な進歩を支える立役者がGAA型トランジスタなのです。

下図はそれぞれのトランジスタ構造のイメージ図です。左から従来の平面型、FinFET、GAA型となっています。

GAA構造を作るRapidusの挑戦

RapidusはGAA構造を用いた次世代半導体の実現に挑戦しています。Rapidusが目指す2nm世代プロセスでは、FinFETに代わりGAA構造の採用が不可欠です。最先端の2nmノードでトランジスタを量産するためには、シリコンのナノシートを精密に積層形成し、その周囲を原子レベルで正確にエッチングしてゲート電極で囲むといった高度なプロセス技術が必要です。Rapidusはこの技術基盤を築くために、米国IBMや世界的な半導体技術の研究機関であるベルギーのimecなどのパートナーと共同開発や人材交流を積極的に進めています。

IBMと協力して2nm世代の量産技術開発を推進し、米ニューヨーク州の研究拠点に約150人のエンジニアを派遣してノウハウを習得しています。北海道千歳市に建設した最先端工場であるIIM-1では2025年に試作ラインを立ち上げ、2025年7月にはGAA型トランジスタ構造を実現し、その動作を確認しました。今後、2027年の2nm世代チップ量産開始を目指して準備を進めています。

北海道千歳市に建設中の最先端半導体製造拠点IIM(イーム)

Rapidusが開発する2nm世代のチップは、AIの高度な計算や高性能コンピューティング(HPC)用途に必要な高性能かつ低消費電力の中核デバイスになります。国内外のパートナー企業や研究機関と連携し、GAA構造トランジスタの製造技術を国産ファウンドリとして確立することで、AI時代・デジタル時代を支える最先端半導体の供給に貢献します。

まとめ

トランジスタは、真空管に代わる電子スイッチとして1940年代後半に発明されて以来、半導体集積回路の基本要素として絶えず小型化され、高性能化と省電力化の進化を続けてきました。こうした微細化とさらに2010年代以降のトランジスタ構造の革新を重ねて現在ではナノスケールの「究極のスイッチ」と言える存在になっています。この進化により、スマホやPCの性能が飛躍的に向上し、クラウド上でAIが膨大なデータを処理したり、自動運転車が周囲の状況をリアルタイムで判断したりする未来の技術が現実のものとなりました。

今後もトランジスタ技術は進化を続け、私たちの想像を超える未来を創造するでしょう。ポスト・ムーア時代の取り組みとしては、新材料の導入やCFET(Complementary Field-Effect Transistor)と呼ばれるトランジスタのさらなる3次元化に加え、電子と光を融合させた光電融合技術や、原理の異なる量子コンピューティングの実用化など、多様な方向性が模索されています。

こうした新技術が成熟したとしても、0と1のデジタルを制御する基本原理を築いたトランジスタの役割は色あせることがありません。シリコン上に刻まれた無数のトランジスタによるデジタル革命は、これからも私たちの未来を切り開いていくことでしょう。

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