ピープル
技術開発は人づくり。絶対に諦めないエンジニアたちの成長と、確信する2nm先端半導体の開発
世界最先端の2nm半導体の量産に向けて光のような速さで開発を進めているRapidus。量産開始時期を2027年度中としており、パイロットライン立ち上げを開始した2025年4月から数えても残された時間はあまりない。非常に難易度が高い技術開発を、短期間で成功させるために支えているのは現場のエンジニアだ。専務執行役員 エンジニアリングセンター 副センター長の藤野繁大が、エンジニアの葛藤と成功に導くストーリーを語った。
キャリアパスと会社から期待された技術の確立
――藤野さんのキャリアと、Rapidusから期待されていたことを教えてください。
私は材料分野の出身で、韓国の会社で働いたあと、Ph.D.(※1)を取得するためにアメリカに留学しました。Ph.D.を取得後に材料開発ができると聞いて入社したのが前職のフラッシュメモリーメーカーです。私が入社した当時はまだ小さなベンチャーで、日本の大手メーカーとジョイントベンチャーを作り、三重県四日市市に拠点を構えました。
その後、Rapidusに入社した私に課されたミッションは二つです。
まずはIBMが開発したGAA(Gate-All-Around)(※2)の技術を学び、プロセスを構築すること。そして、IBMの研究所(ニューヨーク州アルバニー)で確立した技術を北海道千歳市のIIMに持ち帰り生産できるようにすることです。
実現のためにはIBMの協力が不可欠で、ジョイントベンチャーの経験を買われて私に白羽の矢が立ったというわけです。
IBMとの協業でのエンジニア育成
――アルバニーに派遣されたエンジニアに対して、はじめにどのような話をされるのですか。
私がいつも話すのは誠実、尊敬、忍耐です。
誠実とは「嘘をつかない」ことです。人は良く見せようと嘘をつくことがありますが、データや結果をありのままに報告できる誠実さを持つ大切さを伝えます。
尊敬の気持ちも大切です。成果を得るためには他のエンジニアとの協力が必要です。誰かの成功が自分の成功に結びつくので協調性をもって臨んでほしいと伝えています。
忍耐はGrit(やり抜く力)と言い換えた方が良いかもしれません。できなかったことをできるようにするのがエンジニアの仕事なので、「成功を掴むまでやり抜く」という意味で言葉を使っています。
――IBMとの協業について多くのエンジニアが初めての体験ではなかったかと思います。どのようなサポートをされたのですか。
まずアルバニーに赴任してきたエンジニアは、年齢や専門分野などさまざまなバックグラウンドの持ち主です。プロジェクトを進めるには進むべき方向を一つにする必要があります。方向を示した上で「何をすべきか自ら考えて動くようにしてほしい」とエンジニアに伝えました。
このプロジェクトではIBMとの協力が不可欠です。組織の壁を取っ払い、一つのチームにするため、名作映画にちなみ「Titans」という名前をつけました。あくまでもひとつのチームとして協力して開発を進めるために、RapidusとIBMで役割を分けませんでした。また、エンジニアのデスクを日本の会社で見られる「島」のように並べ、コミュニケーションを取りやすくしました。
――日本人の場合「言語の壁」が立ちはだかります。克服のために必要なことは何でしょうか。
決して諦めず、自分の意見をきちんと伝えることが必要です。
初めは英語が拙く、なんとなく伝わったと思うかもしれません。しかし、意見を伝えるために最低3回は繰り返して伝えなければなりません。それでもだめなら自分が間違っているのか、相手に何か不足があるのかとはじめて別のことを考えます。
試行錯誤することでコミュニケーションの機会が増え、それが次の行動につながって良いサイクルになります。英語に限らず、成果を出しているのは愚直に繰り返したエンジニアです。
2nm先端半導体の実現に向けて、自信が確信に変わった瞬間
――2nm先端半導体開発に目処がつくまでのエンジニアの方々の葛藤やチャレンジについて印象に残るエピソードを教えてください。
最も印象に残っているのは、昨年(2024年)7月に起こったある出来事です。
当時、大きな開発方針の見直しが必要でした。今までの方針と新しい方針を同時に進めるのか、統合して一つの方針として進めるのかの選択を迫られたのです。このときエンジニアたちは自ら覚悟を決めて後者を選びました。残された時間がない中でしたが、最終的には期限までに成果を出していました。
もし、二つの方針を同時並行で進めて一方はRapidus、他方はIBMのように分かれれば構築したチームも崩れかねません。覚悟を決めて進められたのは両社のエンジニアたちがIIMで最先端2nm半導体を開発することがゴールだと分かっていたからです。一つにまとまったTitansだからこそ得られた成果です。
――Rapidus独自のレシピで2nmの開発に目処がついたと確信したのはどのような瞬間でしたか。
まずはアルバニーにてトランジスタの特性(性能)を確認できたことです。「これで技術は確立できた」と思いました。その上で今年(2025年)の3月までに達成すべき重要な目標がありましたが、これを達成できて、より確信に近づきました。
今年の7月18日に発表した「魂のロット」も確信に近づいた出来事です。IIMでGAAトランジスタを開発し、特性に問題がないことを確認できたのです。
確信に変わったのは先月(9月)です。2024年に博士課程を修了して入社した4人のエンジニアがIIMに戻ってきたので話しました。「2nm半導体を作れる?」と聞いたところ、入社当時は頼りなかった彼らが「心配しないでください。最後までやり切りますから」と言うのです。はっきり言ってくれたことで確信に変わりました。
ニューヨークで成長したエンジニアのIIMにおける活躍
――「魂のロット」の製造において光ったエンジニアたちの活躍について教えてください。
まずは協力してくださった関係者の皆様に感謝しなければなりません。IIMを建てた建設会社、IIMに装置を立ち上げてくれた装置メーカー、そして生産に必要な材料を供給してくれた材料メーカーなど、多くの関係者に支えられて魂のロットが完成しました。
Rapidusの中で特に頑張ったのはプロセス(工程)のエンジニアです。2nm先端半導体を生産するには成膜、露光(リソグラフィ)、エッチング、研磨(CMP)などの工程があります。それぞれに担当のエンジニアがおり、彼らの奮闘ぶりには特に光るものがありました。
昨年の12月、まるでクリスマスプレゼントのようにオランダのASML社からEUV露光装置が納入されました。しかし、生産には他にもさまざまな装置が必要で、わずか2か月半の間に200台以上の装置を立ち上げ、ロットを流せるようにしたのです。しかも、大きな事故もなくです。
当初の予定通り、2025年4月1日にロットを流せるようにしたプロセスのエンジニアには本当に感謝しています。
――NYに派遣されたエンジニアの成長について印象に残るエピソードをお聞かせください。
私が驚くほどの成長を感じた2人を紹介します。
1人目はあるエンジニアです。IBMのチームメンバーが1週間休暇を取る間、試作品の面倒を頼まれた彼は、毎日が緊張の連続でした。
しかし、彼は疲れた顔で「Rapidusは1秒の重みが全然違います。自分がものすごいスピードで成長していると実感できます」と言ってきたのです。短い時間のなかでプロジェクトを本気でやり切る強い気持ちが、彼を成長させたのだと思います。
2人目はあるマネージャーです。彼は赴任当初、仕事環境に対する不満を口にしていましたが、その後に目覚ましい成長を遂げたのです。
露光担当で、いち早くIIMに戻ってきた彼は「いいチームができました。4月1日には予定通りロットを流します」との言葉通り、日本で初めてEUV露光装置による露光を成功させました。それだけでなく「装置メーカーのエンジニアの方や、優先してロットの解析をしてくれたメンバーがいたからこそ成功しました」と、感謝の気持ちを口にするようになったのです。彼もまたプロジェクトに本気で取組むなかで周囲の力を実感し、感謝できる人に成長したのだと思います。
ありがたいことにRapidusには優秀な人材が集まっています。しかし、メンバーの成長なしには、非常に短い時間で量産体制を確立できません。4月の流動開始も、7月のトランジスタの特性確認も、この先も同じです。
今後の展望と成功に向けて必要なマインド
――藤野さんが今後取り組んでいきたいことは何ですか?
2027年度中の2nm量産開始を第一目標に開発を進めています。その後、2nmの次の世代の半導体量産に結びつけていきます。10年先までのロードマップを描いていますが、時間との戦いという問題は常にあります。
IIMは、AIによって世界一速い先端半導体の生産を可能にしたファブ(生産拠点)です。この特長を活かして「Virtual Fabrication Process(VFP)」の構築を考えています。従来とは異なり、シミュレーションをフル活用して生産前に半導体の性能を予測するものです。これにより30%から40%の生産時間短縮を見込んでおり、基礎開発を3年以内に、実用化を5年以内に実現する予定です。
――短期間で試作品成功にこぎつけたエンジニアに対しての想いと育成において大切にしていることは教えてください。
魂のロットの試作成功と、2nm半導体生産の確信を得たことで、奇跡は起こるものではなく起こすものだと思いました。この奇跡を起こしたのは熱い思いをもったエンジニアです。
エンジニアを育成するにあたって絶対にだめなのは「エンジニアの心を傷つけること」です。挑戦の数だけ失敗も増えますが、上司が「なぜ、できない?」と責めてエンジニアが萎縮すると二度と挑戦しなくなります。イノベーションを起こすのは工場でもなく装置でもなく、結局は人(エンジニア)なのです。
――挑戦することを楽しんでいるように感じました。藤野さんのモチベーションの保ち方と、それを組織運営にどのように活かしているか教えてください。
どれほど困難な状況でも耐えて笑いながらメンバーと事実を共有し、解決していくしかありません。大変な状況だからこそ成長するし挑戦する価値があります。
私は「Do or Do not, there is no try.」という言葉が好きです。日本語に訳すと「やるかやらないのか、いずれかしかない。やってみるなどない」という意味です。ですので、やると決めたら覚悟をもって最後までやりきるんです。
エンジニアには「仕事ができる人」になってほしいですが、「仕事だけができる人」にはなってほしくありません。アルバニーには約150人のエンジニアが赴任しました。家族を含めると500人程度がアメリカに渡ったことになります。私たちが笑って仕事ができるのは、支えてくれる家族がいるからです。
Rapidusが考える便利で豊かな未来を実現できるのは、絶対に諦めないエンジニアたちのおかげです。2027年の量産開始に向けて誠実、尊敬、忍耐の心をもつエンジニアたちと一緒に光のような速さで技術開発を進めていきます。
Rapidusが世界最先端の2nm(ナノメートル)ノード半導体製造を目指す上で、ゼロから立ち上げた半導体製造工場『IIM』にて最初に製造された試作ウェーハのことを指す。このウェーハから2nm GAA トランジスタの動作確認を達成した。魂のロットは単なる試作品ではなく、Rapidusの挑戦と情熱、そして全社員の心を一つにした努力の結晶を意味する言葉である。
博士号のこと。特定の学術分野の研究を行って論文を執筆し、審査に合格して初めて取得できる。その分野における最上位の学位。
チャネル部分をナノシートやナノワイヤ状に形成し、ゲート電極が全周囲からチャネルを取り囲む3次元構造のトランジスタ。複数のチャネルが垂直方向に積み重ねられた構造となっており、ゲート電極による制御(スイッチング)がチャネルの全周囲から行える。
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