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なぜ半導体不足が起きたのか? その理由を解説

世界を揺るがす「半導体不足」の正体

「半導体不足」とは、スマートフォンや自動車、産業機器など、さまざまな製品の中核を担う半導体チップの供給が需要に追い付かない状況を指します。2020年以降、新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけにサプライチェーンが混乱しました。さらに、在宅需要の急増や米中摩擦による地政学リスクの高まりが重なり、世界的な半導体不足が一気に顕在化しました。その結果、自動車の生産停止や家電、ゲーム機の品薄など、幅広い分野で供給障害が発生し、製造業ではグローバルな生産計画の見直しを余儀なくされました。

半導体は、AI、通信、エネルギー、データセンターなど、現代社会を支えるインフラ的な存在となっています。その供給停滞は単なる部品不足ではなく、経済全体の競争力を左右する構造的課題でもあります。日本企業にとっても、調達リスク分散や国内生産体制の再構築といった長期的戦略が問われています。

半導体が現代社会に欠かせない理由

半導体チップは、社会のさまざまな場面で機能しています。スマホやPC、家電に自動車といった身近な製品から、鉄道インフラ、金融システム、さらには工場の生産設備まで、ほぼ全ての電子機器に半導体が組み込まれています。これらが正常に稼働することで、私たちの生活やビジネスは支えられています。

半導体は、情報の処理・記憶・制御を担う頭脳として、通信ネットワーク、クラウドサーバ、AI、エネルギー管理システムなど、次世代社会の基盤技術を支える存在です。もし半導体が供給されなくなれば、通信、医療、金融、物流といった主要インフラが停止し、経済活動全体がまひする可能性さえあります。

すなわち、半導体は単なる部品ではなく、デジタル経済の根幹をなす戦略的資源といえる存在です。その価値はエネルギーや資源にも匹敵し、現代では国家レベルでの技術競争や産業政策を左右する要素となっています。

このように用途が幅広いため、半導体産業の規模も非常に大きく、国際貿易においても半導体は世界でトップクラスの取引額を占めています。WSTS(世界半導体市場統計)の発表によると、2024年の世界の半導体市場規模は、前年比+19.7%の約6300億ドルに達しています。この成長はデジタル化、ネットワーク化の進展による半導体需要の年々の高まりを反映しています。

なぜ半導体は足りなくなったのか

コロナ禍における予期せぬ需要の急増

新型コロナウイルス感染拡大による外出自粛やテレワークの普及によって、在宅勤務やオンライン学習が広がりました。それに伴ってPCやタブレット、家庭用ゲーム機などコンシューマー向け電子機器の需要が爆発的に増加しました。それまで徐々に伸びていた半導体需要が、一気に数年分先取りするような勢いで拡大したのです。実際、2021年の世界半導体市場は前年比25.6%増という異例の高成長となり、市場規模は約5530億ドルに達しました。これは11年ぶりの成長率であり、想定されていた以上の旺盛なデジタル需要が発生しました。

自動車産業の誤算

半導体不足が最初に顕在化したのは自動車分野でした。コロナ禍初期、新車販売の落ち込みを受け、多くの自動車メーカーは「需要減が長引く」と判断し、車載半導体の発注を大幅に削減またはキャンセルしました。ところが経済の持ち直しとともに需要が急速に回復し、供給が追い付かず世界各地で生産ラインの停止や減産が相次ぎました。半導体の製造には数カ月単位のリードタイムが必要なうえ、主要なファウンドリ(受託生産工場)は年間契約で生産枠を確保するため、急な需要変動に柔軟には対応できないという供給側の構造的な問題もありました。

特に自動車産業のジャストインタイム生産方式の採用が、今回の半導体不足で裏目に出た側面も指摘されています。この方式は、必要な部品を必要なときに必要な量だけ調達し、在庫を最小限に抑えることで効率化を図る仕組みです。しかし、突然の需要変動やサプライチェーンの混乱が起きると脆弱(ぜいじゃく)で、想定外の事態に対応しにくいという弱点があります。

この事例は、グローバルなサプライチェーンの脆弱さや需要予測の困難さ、そして製造業における生産調整の難しさを浮き彫りにしています。今後はリスク分散や製造能力の柔軟化が、競争力維持の鍵となります。

サプライチェーンの構造的な脆弱性

半導体の生産供給網には構造的な脆弱性が存在します。先端半導体の製造拠点は、台湾や韓国など一部地域に集中しており、この偏在が大きなリスクとなっています。近年では、干ばつ、寒波、地震、火災といった自然災害や設備トラブルが相次ぎ、半導体製造に不可欠な材料や部品の供給が一時的に滞る事例が生じました。

さらに、米中対立や輸出規制といった地政学的リスクも安定調達を難しくしています。こうした不安定な環境のなか、各メーカーはリスク回避のため在庫を積み増す動きを強めた結果、市場全体の流通量が減少する悪循環が発生しました。

生産拠点の集中による地理的偏在や自然災害リスク、地政学的リスク、サプライチェーンの複雑化が重なったことが、半導体不足の長期化を招く主要因となりました。今後は、分散型生産やサプライチェーンの強靭(きょうじん)化、材料調達の多様化が不可欠となるでしょう。

急速な需要増に追い付けない半導体製造と投資の壁

半導体工場を新たに建設するには、莫大な投資と長い時間が必要です。需要の急速な拡大に応じて生産能力を即座に倍増することは不可能であり、常に拡張には時間的な遅れが伴います。加えて、微細化技術の進展により一部の先端製造装置や材料は供給メーカー自体が限られており、生産ボトルネックの解消にも時間がかかっています。

巨額の設備投資と長期間を要する技術的制約がある中で、急激な世界的需要の拡大に供給体制が追い付かず、慢性的な半導体不足が生じたのです。

この状況は半導体産業の生産能力拡張の困難さを示すとともに、安定的なサプライチェーン構築や継続的な設備投資が、今後の産業競争力維持に不可欠であることを明確にしています。

半導体不足が私たちの生活と経済に与える影響

半導体不足は、私たちの生活や企業活動にも具体的な影響を及ぼしました。消費者レベルでは、自動車の生産遅れによる新車の納期長期化や、人気ゲーム機、最新PCパーツ、高機能家電の品薄、価格高騰が発生しました。「欲しくても買えない」「修理部品が手に入らない」といった状況は世界各地で報告され、ユーザーの不満や消費機会の損失を招きました。

企業レベルでも製造業を中心に深刻な打撃が生じました。必要な半導体が確保できずに工場ラインの停止や減産を余儀なくされました。2021年前後には、世界の主要自動車メーカーが相次いで生産計画を下方修正し、数百万台規模の減産が報じられています。

また、開発現場にも影響が及びました。試作に必要な半導体が入手できず、R&D(研究開発)のスケジュールが遅れるケースも見られます。こうした遅延は、中長期的な製品競争力の低下につながるおそれがあります。

半導体不足は、サプライチェーン全体に波及しました。企業の業績悪化や国際競争力の低下だけでなく、雇用や投資にも影響が及び、経済全体に負担を与えています。もはや一国の問題ではなく、世界的な課題として各国政府が産業支援策を進めています。

AI時代に求められる最先端半導体

このような課題に直面する中でも、デジタル技術の進化は止まりません。特にAIの普及は社会に大きな変革をもたらしています。クラウドサーバやデータセンターの演算能力に対する要求は爆発的に高まり、従来の半導体技術の限界を超え始めました。そのため、演算性能と電力効率を極限まで高めた最先端の半導体チップの需要拡大が確実視されています。

Rapidusが量産化を目指す2nm(ナノメートル)世代チップは、AI、高速通信、自動運転など、次世代のデジタル社会を支える中核技術です。AIモデルの学習や推論には膨大な電力が必要で、従来の技術では電力消費量が増大し、運用コストと環境負荷が課題になっています。2nm技術の核心は、微細化によってトランジスタの動作電圧を下げ、チップの消費電力を大幅に削減することです。これは、膨大な電力を使うAIデータセンターの運用コストと環境負荷を抑制する解になると考えられています。また、自動運転車やソフトウェア定義型自動車(SDV:Software Defined Vehicle)向けの汎用ECU(Electronic Control Unit)チップの演算性能を向上させてチップの小型化を実現します。2nm世代の半導体は、デジタル経済の成長を支える先端技術なのです。

北海道・千歳「IIM-1」で最先端量産体制を構築

Rapidusは北海道千歳市で、環境と調和した最新鋭のファブ設計を採用した次世代半導体工場「IIM-1(Innovative Integration for Manufacturing)」を建設中です。2025年4月にパイロットラインの稼働が開始し、2027年の量産開始を計画しています。生産設備には、ASML社製EUV(極端紫外線)露光装置を日本で初めて量産対応の設備として導入し、国内に先端ロジックプロセスの製造拠点を築きます。

北海道千歳市に建設中の最先端半導体製造拠点IIM(イーム)

「RUMS」モデルによる一貫統合と最短リードタイム

Rapidusの特徴的な取り組みが、新しい生産体制「RUMS」(Rapid and Unified Manufacturing Service)です。RUMSは、これまで分断されがちだった設計、前工程(ウェーハ製造)、後工程(パッケージング)を一貫統合し、顧客ニーズに合わせたカスタムチップを世界最速級のサイクルタイムで届けることを目指すモデルです。

また、RapidusはIBM(米国)との協業を通じてGAA(Gate-All-Around)トランジスタによる2nm技術の開発を進めており、設計段階から量産に至るまでRUMSでシームレスに連携することで、開発速度と量産立ち上げの迅速化を図ります。

IIM-1を核に、国内外の企業・研究機関との連携をさらに拡大し、北海道に先端半導体のエコシステムを形成していきます。これにより、日本発の先端チップを迅速かつ安定的に供給できる体制を整え、半導体不足の解消とサプライチェーンの強靭化に貢献します。

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